症状と対応方法
家族が認知症と診断されたら
認知症の家族を抱えると、多くの人は、いつまで続くのかわからない介護にストレスを感じ、長期にわたる対応に体調を壊したり、場合によっては、うつ病になってしまう人も少なくありません。大切なことは、家族だけで抱え込むのではなく、まずは、信頼できる相談先を見つけることです。かかりつけ医、専門医、地域包括支援センター、ケアマネジャーなどに相談をしながら、デイサービスやショートステイなどの介護保険サービスや地域の民生委員やボランティアなどの支援を積極的に受けることを考えましょう。大事なことは、ぎりぎりまでがんばり過ぎないこと。近所の人たちにも認知症のことを隠すのではなく、きちんと説明し、地域全体で見守り・支えてもらうことが大切です。
認知症の人は、決して何もわからなくなっているわけではありません。
しかしながら、家族が認知症を発症したとき、多くの人は混乱し、誤った対応をしてしまいがちです。
認知症は、適切な医療とケアがあれば、安心して穏やかに過ごせることがわかってきました。さまざまな症状ごとに、どのように接したらよいのか考えてみましょう。
認知症の主な症状ごとの対応例
ここでは基本的な対応例を紹介していきますが、認知症は、原因となる疾患や進行状態、本人の性格、環境などによって、出現する症状やその内容・程度が大きく異なるため、当然、その対応方法も異なります。繰り返しになりますが、ここで、最も大切なのは、1人で抱え込まないことです。対応方法については、かかりつけ医やケアマネジャーなどの専門家に、積極的に相談をしましょう。
◆ 何度も同じことを聞いてくる【物忘れ】
新しい事柄から覚えられなくなり、何度も同じことを尋ねます。「今日は何曜日?」「どこへ行くの?」「食事は何時?」など、状況が把握できず、理解できない自分が不安で何度も聞きます。ここで、介護者が一方的に怒ったり否定をすると、本人の不安や戸惑いは更に大きくなってしまう場合があります。
何度聞かれても、初めて聞かれたときと同じように答えてあげることが基本ですが、毎日のことになると、難しいのが現実です。本人が安心し納得できるような工夫として、見やすい場所にメモを残したり、カレンダーにまるをつけてもらったり、大きなスケジュール表を作るなど、ヒントを与えることも記憶を助けます。
この場合のポイントは、情報量をできるだけ少なくし、伝える内容をかんたんで分かりやすい言葉にすることです。
◆ お金を盗んだと介護者を責める【物盗られ妄想】
「お金や物を盗まれた」と訴える物盗られ妄想に、家族は悩みます。最も身近で、普段介護をしている介護者を妄想の対象者にすることが多いですから、介護者は辛い思いをするでしょう。本人は盗られたと確信しているため、いくら盗っていないと否定しても、納得させることは困難です。
訴えは否定せずに受け止め、まずは話を聞いてあげることが大切です。失くなったものを本人と一緒に探した上で、徐々に関心や興味を別に向けることができれば、少し落ち着くかもしれません。
もちろん、はじめから介護者が管理し、「いつでも必要なときは言ってくださいね」と安心感を与えることができれば良いですが、うまくいかない場合は、日頃よくしまいこむ場所やくせを知っておくだけでも役立つでしょう。
◆ 夕方になると「そろそろ家に帰る」【徘徊】
今、自分が住んでいる家なのに、「そろそろ、家に帰ります」などと言って外出しようとする行動は、徘徊という症状です。特に、日が暮れる頃になるとソワソワ・ウロウロする行動は、「夕暮れ症候群」とも呼ばれています。実際に外出してしまい、自宅に戻れないようになり、家族が懸命に探したり、警察に保護されることもあります。
周囲にとっては「徘徊」であっても、認知症の本人にとっては目的のある行動です。今、住んでいる家を自宅と認識できず、強い不安から、生家や過去に過ごしていた場所を探している場合もあります。ここでは、無理に引きとめるのではなく、「今日は時間が遅いので、明日、私が送ります」など説明し、安心してもらうことで落ち着くこともあります。
また、「おいしいお茶を飲みましょう」と声をかけたり、一緒に外出し近所を一周するうちに気分が変わることもあるでしょう。
一人で外出してしまうことを予防するためには、日中できるだけ1人にならないようにデイサービスなどの介護保険サービスを利用するほか、玄関にセンサー(徘徊感知機器)を設置したり、携帯端末機GPSによる位置探索システム(市町村により実施)の活用も考えられます。詳しくは、担当のケアマネジャーなどに相談してください。